作品解説
-Star in The Desert / 砂漠の星-
2016年6月14日
東日本大震災、桜島の火山噴火、そして熊
本地震。度重なる自然災害によって、僕らに
とって「被災者」という言葉が日常的になり
つつあるようです。その中で僕らの内では、
「被災者」と「そうでもない者」という区別
が無意識に生まれて、それぞれがまるで別の
世界で生きているかのような錯覚をしてしま
うこともあるかも知れません。ですが、僕ら
は根本的に同じ人間で、同じく不確かな世界
の中で生きていることを忘れてしまったので
はないでしょうか。
「震災を忘れない」という言葉が東日本大
震災を受けてとても力を振るっていましたが、
実際にはどうだったのか。日本は震災後から
益々、危険な道へと進んでいると思います。
自然災害は抗いようがありません。しかし二
度目の震災を傍目に、原発がどんどん再稼働
されようとしている流れがあって、力を持っ
た報道は自主規制に追い込まれ、真実は益々
闇の中へと隠されようとしています。特定秘
密保護法による目隠しも、集団的自衛権の行
使容認も、テロ対策という大義名分の元で一
層加速し、その中で災害の悲劇もなかったよ
うに扱われていきました。その一方で目先の
利益や破滅的な欲望のために、悲劇が利用さ
れている事実から目を背けることは出来ませ
んでした。
この世界はまるで砂漠です。偉大で不確か
な自然だけではなく、僕たち人間のうちにあ
る混沌もまた、多くを不確かにしながら景色
さえも歪めているようです。絶対者さえも、
僕たちにとっては曖昧な存在になりうるかも
知れません。
それでも僕たちは生き続ける限り、希望を
求めることを絶やすことはないでしょう。癒
えない悲しみや無力感を知っているから、そ
の乾きを満たすものをいつも欲しがっている。
暗闇がそこにあって、それでも目が開いてい
るのは、その目で光を見つけるため、進むべ
き道を見つけるため。
さながら僕たちは、夜空に浮かぶ星を見つ
めて追いかけている少女と、その星のような
存在なのかも知れません。彼女が見つめ追っ
ている星にもまた、同じように砂漠が広がっ
ているかも知れません。そしてその砂漠で、
彼女と同じように星を見つめ追っている人が
いるかも知れない。
出会い、偶然、奇跡、その星にはどんな名
前が付くのか、僕には分かりません。それで
も今、生きていることで何かを希望している
ことを、忘れてはいけません。苦しみがある
ならば、それを癒す存在は必ずあるはず。そ
れが例え、自分が望まない形であったとして
も、必ず。
本作は熊本地震を期に制作させて頂きまし
たが、二つの震災を経て、僕たちのいるこの
世界はどのような所なのか、そして何を見失
ってしまったかをいま見つめ直す時だと思い
ます。別々の出来事ではなく、同じ世界の出
来事として、この記憶を残しながら伝えてい
く努力がこれからも必要となるはずです。
そこで僕は、これらの作品を一つの物語
として組み立てていきたいと考えました。
小さい頃、戦争や環境汚染に関する幾つか
の絵本を読んだことがありました。言葉や
音楽、絵、様々な芸術はとても無力なよう
に見えますが、たった一冊の絵本が僕たち
に与える影響はとても大きいです。その可
能性を信じて、今度は僕自身が表現を通し
て頂いたものをここで還元したいです。
けれど表現者としての願望はこの際どう
でもいい。ただあなたの日常に希望に満ち
た日々が早く戻ってくることを願っていま
す。その日まで、この物語は続くのですか
ら。