作品解説
-The Morning of Shichigahama / 七ヶ浜の朝-
2015年3月11日
東日本大震災の翌年三月末、僕は宮城県七
ケ浜町を訪れました。防波堤は砕かれ、鉄の
フェンスはアメ細工のように曲がり、住宅地
は基礎だけを残して更地に。廃車のスクラッ
プの山、ガレキと呼ばれた生活と思い出の欠
片たち。
曇天の朝を前に、言葉を失いました。僅か
な優しさを持ち寄った所で、泡のように弾け
てしまう。どんな言葉も無力で、僕はただ臆
病になった。
七ヶ浜町の人たちは今、何を思っているの
か。思い出すほどに胸が痛く、それでも僕は
何も出来ずにいました。
不思議と僕が絵を描くことを覚えたのは、
七ヶ浜町を訪れた二ヶ月後でした。当時は動
機らしい動機もないただの楽しみでしたが、
次第にそれは僕にとっての第二言語となりま
した。
その言葉を使って何を伝えるべきか。そこ
で思い出したのが七ケ浜町でした。ただ東日
本大震災という事実を忘れたくなかった、忘
れてほしくなかった。日本は今、この過去を
置き去りにして逃げるかの如く時が早鐘を打
ちます。僕はもう、大文字の見出しを信じる
ことができません。これ以上、権力の欺瞞に
は与したくない。
この絵を描いてしまったことが今でも怖く
なります。七ヶ浜町の人々を無意識にでも傷
つけていないか、この作品自体が僕の奢りで
はないか。赦しを求めようにも求められない
、そんな想いです。
それでも、僕は続けていこうと思います。
僕にとって絵を描くという行為はお祈りと同
じ、幸せを願うことなのです。僕は祈り続け
ます、苦しみの中を生きる人々の幸せのため
に。
ですから、生き続けてください。僕も生き
続けます。曇天の空にも朝陽が昇ったように
苦しみの果てに光を見つける日を祈って。