我、此処にあらず。

 色々な出来事と直面してから、自身の考えについて

振り返ることが多くなりました。

日々の積み重ねが今の自分を作る。

そんなのは当たり前ですけど、僕はそのある部分から長らく

目を背けていたと気付かされました。

一度染み付いた感覚は中々変われない、それは他の誰かも、僕も同じでした。

 

 

 僕は小さい頃人見知りで、特技もなくとにかく運動音痴で、

自信がないから自分より立派に思える子の後ろに隠れて守られていました。

人の真似をしたり、仲の良い子と一緒に過ごしたり、

けれど自分から何かアクションを起こそうとしたことは殆どありませんでした。

 

 

 小中学校に入る頃、僕も大人への憧れを抱くようになります。

けれどどんなに頑張っても運動音痴は直りませんし、

勉強だって人並み程度にしか出来なかった。

皆を惹きつけるリーダーにはなれない、だからひたすら、

意地を張って格好つけることで自分を成り立たせようとしていました。

 

 

 高校時代は人間不信と競争の連続でした。

中学からガラリと人間関係も変わり、思いやりもなく騒ぎ立てる

他の学生たちが嫌で仕方が無かった。

少しでも強くなりたい、それだけを原動力に僅かな腹心の友と

一緒に独自の受験対策をしたり、ピアノを始めたりしました。

隙間を埋めたかった、自分を値踏みした大人たちを見返そうと、

東京の有名私大を第一希望に、ふるさと名古屋の有名私大を

第二希望に掲げて受験に臨みました。

結果、第二希望の大学に合格して名古屋に残ることとなりましたが、

その時初めて、競争の無意味さを知りました。

 

 

 受験を終えて東京から帰った時、家族が温かく

迎え入れてくれたのが大きな理由でした。

その温かさには学歴も特技も、何も関係ない。

家族として僕を無条件で愛してくれたことが、今でも忘れられませんでした。

 

 

 それ以降、僕は競争することで自分を肯定するのをやめました。

「上に登り詰めたら今度は見下す立場になる」

友達のこの言葉も僕の中では決め手でした。

もう登らなくてもいい、特別な存在でなくてもいい。

僕の周りには色んな友達がいて、彼らの中には

複雑な家庭事情があったり、人には簡単に理解されない心境を持つ人もいます。

僕は、そういう人たちの理解者になりたかった。

せめて僕の中だけでも、彼らを特別な存在にしたかった。

それが彼らの支えになれるなら、僕も幸せ。

その考えは今でも変わらず、絵を描くことや他の趣味、

職業選択でも重要な判断基準です。

 

 

 人の幸せが自分の幸せ、だから僕は人一倍、

他者への感情移入が強いのだと思います。

趣味が全く違って話について行けなくても、

ただ楽しそうにしているのを見れば僕も楽しい。

僕のそばで誰かが泣いていると、僕も悲しくて仕方がない。

他者の感情と寄り添ううちに、彼らの経験の一部を

追体験しているような感覚があります。

 

 

 その中で、他には代えられない大切な出会いがありました。

僕よりも年下の子たちで、無邪気でワガママで、けれど素直で可愛い子たちです。

その子たちとは数奇な運命の中で出会い、その複雑さに悩んだり、

すれ違ったり、短い間にも色々な出来事がありました。

その出来事については今詳しくお伝えできませんが、その子たちは

僕が無意識に閉じ込めていた、ある感情を呼び覚まさせました。

 

 

 そのきっかけの中には、あまり心地よいとは言えない

場面もありましたが、苦難を乗り越えた先にあった

喜びを知ってから、それがとても大切だったのだと分かりました。

 

 

 いまこの時点で、こんな事を思って良かったのか、

けれど溢れ出す感情に嘘はつけなかった。

他の誰でもない、僕も誰かにとって特別な存在でありたかった。

愛することをやめられない、だけど僕も、愛されたかった。

他者を思うあまり、僕自身を置き去りにしていたのかも知れません。

それに気づいた時、とても嬉しかったけれど、とても怖かった。

 

 

 他者との関わりの中でもちろん、僕自身の性格や考え、

生い立ちについて考えることは何度となくありました。

悪しき誘惑や絶望から逃れたい、虚しい人生にはしたくない、

他でもない自我を保ちたいと、いつも願っていました。

けれど他者に自分を重ねるうちに、無意識のうちにある部分では

すごく自己肯定感が低かったと気付きました。

認められなくてもいい、誰かが幸せでいてくれたら、そう思ううちに

自身の孤独に向き合うことを、ずっと避けていたのかも知れない。

ワガママだとか迷惑だとか、ずっと思い込んでいたのかも知れない。

 

 

 大切な心を呼び覚ましてくれた、その子たちにずっと感謝をしたい。

複雑な事情があって、もう二度と皆で集まれないかも知れないけど、

もう一度会いたい、そう願う気持ちも抑えられませんでした。

 

 

 何度となく振り返っても、僕は自分の信じる良心を貫き通したい。

これからも変わらず振舞っていきたいと思います。

それでも、一度芽生えた感情を刈り取ることは出来ませんでした。

 

 

「たった一人でも良い、僕を愛してほしい」

こんなふうに僕も、叫んでいいのかな。