胡蝶の夢

(※10/26:ブログタイトルを変更しました。)

 短い間ながら、本当に起伏の激しい一ヶ月を過ごした心地でした。

勿論、楽しいことも沢山ありました。

東西離れ離れの仲間たちとやっと巡り会い、一緒の思い出を作りに歩いた旅路。

束の間の別れを惜しみながら見た夜景は切なくも、再会を約束したあの日。

複雑な心境・関係から悩ましながらも、多くを満たしてくれた出会いがありました。

 

 

 胸を躍らせて帰った、その直後でした。

母方の祖母が脳梗塞で倒れた、という知らせを受けました。

4年前に祖父が亡くなってからは女やもめに花、というと誤解を

招きかねませんが、幸せな余生を過ごしていたと言います。

弱った身体での実家暮らしを支えるべく、僕の母も含む親戚や

子どもたちがそれぞれの時間の合間を縫いながら、祖母を支え続けました。

幸福も絶頂、そう思っていた矢先のことでした。

(恐らく、母やそのきょうだい、親戚たちには

 違った印象があったと思いますが)

 

 

 病床で会った祖母は変わり果てていました。

総入れ歯を外していたために口元がくぼみ、左半身は全く麻痺してして動きません。

瞼は重く閉ざされ、何かを話そうにも弱いうめき声を発するばかり。

辛うじて右腕は元気に動き、まるで全身全霊がその腕に宿ったようでした。

声を掛けると確かに反応します、けれどそれは祖母の意思なのか、

ただの反射なのか、知るすべはありません。

脳の大部分に障害が及び、僕たちの持つような感覚は全く

失われてしまったかも知れない。

 

 

 その弱りきった姿は、晩年の祖父によく似ていました。

祖母の事を話すと、友達は「早く元気になって欲しいね」と

励ましてくれました。

けれど僕も母も、それに反して希望を見い出せなかった。

親不孝と思われても仕方がない、けれど現実を

目の当たりにして想像の余地は奪われてしまった。

 

 

 

 

 

 雨の日が続く、それにもうすぐ台風もやって来る。

僕の周りでも、急に体調を崩して入院したり、脳梗塞か

それに似た症状で倒れた人が数人現れました。

太陽はどこへ行ってしまった、何度雨に濡れたことだろう。

 

 

 雲間から差し込む光を掴んだはずが、不純物のような

群雲も引きちぎってしまったような、何とも言えない気持ちです。

夢が続いて欲しい、けれど夢であって欲しいと、

全てを容易く受け入れられないことに気付かされました。

 

 

 もしも両方が夢だとしたら、出来れば良い夢が正夢で、

悪い夢が逆夢であってほしい。

もしかしたら願いとは逆になるかも知れない。

それでも命が続くなら、雲が晴れ、白む空から光が差すように。

 

 

 今が夢なら、目覚めて真実を知るまで安らかでいたい。

好夢も悪夢も、新しい時へと続くことを願いながら。

 

 

 

『胡蝶の夢』

 

眠り子よ そう夢は正夢

窓辺の春を憶えている

明日を忘れ 再会を抱きしめた花の香

やがてくる 新緑のさふらう

 

眠り子よ そう夢は逆夢

惜別の冬を消さないで

一人に泣く あなたの声を忘らない

秋の埋み火 祭りの痕の夜を 

 

薄弱な温もり 幼い悲しみ

絶やさぬように あなたのそばで

 

そう 今は夢の中

目覚めの刻を ただ待っている

私も眠る 長夜に震える あなたを抱いて