鬼灯の化粧

 このような記事を書くのは不本意ですが、本当につい先ほどの出来事でした。

僕の父方の祖父の弟が亡くなったという訃報が届きました。

冷たく言ってしまえば、僕とは直接関わりのない人ではあります。

ただ、休日ということでたまたま両親がお酒を飲んで運転できなかったので、

僕が父に代わって、祖父の弟の家族の住む実家へのハンドルキーパーとなりました。

本当に誰も予想できなかった、突然の出来事でした。

 

 

 父の案内のもと、車で一時間ほど掛けて広い豊田市の片田舎にある、

祖父の弟の実家にたどり着きました。

父との打ち合わせもあったためか、ご遺族は待ち構えたかのように

僕らを出迎えてくれました。

 

 

 玄関で靴を脱ぎ、すぐ右手にある小さな畳の間に

祖父の弟は白い布をかぶせられたまま眠っていました。

祖父の弟の遺体の前には経机(きょうつくえ、お線香やお経を置く机)があって、

父はその前に座り、合掌しました。

部屋にはいくつかの座布団が敷かれ、今夜お通夜が行われることは

見てすぐに分かりました。

 

 

 ご遺族の話によれば、以前は肺炎にかかったりと体調を崩し始め、

それから歩幅が狭く歩きもならないほどに弱ってしまいました。

直接の死因は静脈瘤の破裂でした。

ご遺族は体調の悪化を心配して、より健康的に過ごすためにも

施設への入居を勧めていましたが、祖父の弟はそれを拒み続けたそうでした。

老いた家族を施設に入れる理由は様々ですが、ご遺族の説明や表情から

本気で親を心配して、愛をもってそうした考えに行き着いたのだろうと思いました。

実家で余生を過ごしたい、それを支える想いは母方の祖母を支える

僕の母の姉と同じだったのでしょうね。

 

 

 

 

 死の詳細を聞き、お葬式と告別式の案内を父が受け取ると、

いよいよ顔を覆っていた白い布をとります。

静脈瘤破裂という痛ましい死があったのか、そう疑うほど綺麗にお化粧がされ、

まるで眠っているかのような安らぎさえ感じさせました。

日頃は入れ歯を付けていたのでしょうか、口周りが大きくくぼんでいました。

彼と会うのも、彼の存在を知るのも、恥ずかしながら今日が初めてでした。

一度も話したことはなくても、確かに祖父に似た顔や雰囲気がありました。

そう言えば去年、栗の木の下で命を絶った祖父の妹も、その死を思わせないほど

綺麗なお化粧で枕元で横たわっていたそうでした。

葬儀屋さんの仕事ぶりには、本当に驚かされます。

 

 

 享年79歳、今の平均寿命からすると早い死でした。

それでも、家族の優しい眼差しに看取られるのは、最期として

一番良い結果だったかも知れない。

僕たちが帰った後、ご遺族はどんな顔で過ごしていたのかな。

 

 

 

 

 そう言えば僕は今、何を描いていたっけ。

大きな声では言えませんけれど、絵を描く時は毎回、

予知夢のような事が起きている気がします。

それも普通、ネガティブだと思われることに限って。

頭が狂ってしまったと見られても仕方がない、けれど

何度も起こったのに偶然の一言で片付けられないのも本音です。

 

 

 

 

 桜火、君は一体何を見たんだ。

何がしたくて、真っ白なページの上に現れるんだ。

何度目でしょうか、また絵を描くのが怖くなってしまいました。