作品解説

-Ein Morgen / 郵便配達の詩-

 

2017年4月12日


 本作の完成は2016年6月1日で、もう
すぐ一年前の作品となりますが、ふとした拍
子に再解釈を行うことになりました。元々本
作は何らかの物語を意図しておらず、そのた
め単に"-Ein Morgen-"と題名も一つしかない
い作品でしたが、物語を吹き込み新たな題名
も与えました。


 色鉛筆を持ち始めて間もない頃の作品で、
スキャン時にコントラスト補正を行いました
が、現物は発色が弱くどこか頼りない、いま
みると未熟さの溢れた内容ですが、今でも大
変気に入っている作品の一つです。恥ずかし
ながら文字通りの自画自賛ですが、技術とは
別の一種アンセムが僕の中にはあります。


 本作に描かれているアイン (Ein) はごく
普通の青年で、特別何かを持っているわけで
はありません。アインの役割は誰よりも早く
起きて、宛先人へ手紙を届ける郵便配達です
。この役割はとても地味で、誰もが思い描く
「成功」とは程遠いかも知れません。けれど
、彼の果たす役割はとても多くを実らせると
思います。



 誰かに向けて手紙を書く人がいます。その手
紙を受け取った人は、どんな表情をするのか、
書いた本人でさえ分かりません。読み違いから
機嫌を悪くして返事も書かなかったり、或いは
酷い言葉を返してしまうかも知れない。或いは
元々、書き手は宛先人に対して悪意を持ってい
たのかも知れない。


 けれどアインは、手紙の内容を知りません。
それでも宛先人に対して、何かを希望している
のかも知れません。受け取った人が喜んでくれ
ることを、そして喜びの気持ちをまた手紙に書
いて、その返事を届ける役目をもらうことさえ
も、アインは期待しているのかも知れません。


 アインは差出人と宛先人の間を往復しますが
差出人にとっても宛先人にとっても彼は、全く
見えない存在です。差出人の望む、宛先人の反
応は何時か目に見えて返ってくるかも知れない
。それは第二の差出人となりうる宛先人にとっ
ても、同じことです。ですが、二人のやり取り
がどうなったかはアインは一切知ることが出来
ません。アインは完全に、二人の間で透明人間
のような存在です。

 それならばアインの役割は貧乏くじなのか、
僕はそう思いません。この小さな役割を果たす
ことで、何か実を結ぶことを期待しているから
。たったそれだけのことです。


 差出人と宛先人、二人を繋ぐ存在がいなけれ
ば、どんな結果を招くでしょうか。初めから喧
嘩腰で手紙を送ったのなら、無用な争いは避け
られたでしょう。ですがその手紙が、誰かの訃
報や危篤を告げるものだったら、パーティの招
待状だったら、日常的な文通だとしたら、孤独
な人を救えない結果になってしまいます。それ
だけアインの役割は大きいのです。




 もしかしたら、手紙のやりとりを行う二人が
アインの存在に気付く時が訪れるかも知れませ
んね。